せんくつにっき

思うこと、感想、とかとか

僕の心のヤバイやつ感想「僕は溶かした」2

・さあ書くぞ書くぞ。順番に行こう。個人の感想、考察です。

 

・今回の話でも、山田は表情がコロコロ変わっていた。改めて思ったが、山田は感情が表に出やすい子だ。特に今回は、山田にしては珍しく怒った顔があった。小林回の最後でもちょっとあったが、あれとは毛色が違う。作中では初めてじゃないだろうか。とにかく、あの表情を引き出した市川に敬礼を。

・8~13ページに渡って、市川が善行を積んでいる。いつものことだけど、今回に関してはその行動の意味、熱量を山田がはっきりと理解できている。と思う。山田はそれを受けてどう感情が動いたか。

・不意に手を掴まれて、まずは当然戸惑いだ。「いち…」と言いかけているのは、疑いようもなく「市川?」だろう。疑問符がつくのも間違いない。気になってる男子が急にそんならしくない行動をしてきたら、多少顔を赤らめるのも自然なこと。

・次に図書委員の先生に気づく。同時、市川の行動の意味にも。

・市川の善行について、山田は今までほとんど気づいていない。自分が覚えている限り、感づいていたのはテッシュ回、小林回、ミルクティー回。どれも確か『落ち込んでいるところを気遣ってくれた』形だ。

・だけども、今回は違う。山田は市川が守ってくれたことに気付き、力強く握られた手と真剣な表情からその熱量を感じ取った。彼がこんなにも真剣に自分のために動いてくれるということを、彼女は初めて知ったんじゃないだろうか。

・また一段と好きになる。枠のないモノローグが二人共の気持ちを表しているという解釈は、たぶん間違ってないだろう。

・さて、先生が去り、市川がばっと手を放す。猫のように。山田は握られた手をそのままに、少し怒った顔で市川を見つめる。

・この顔の解釈には相当悩んだ。いろんな感情が想像でき、そのどれもがありそうなのだ。確信できるのは、手の中のチョコがぐずぐずに溶けているのに、それを目で見るまで認識できなかったぐらい、頭のなかはいっぱいいっぱいだったことだ。

・考え付くのを列挙しよう。『先生が行った瞬間すぐ離れたことに対する不満おこ』『急に無茶苦茶ドキドキさせられたことに対する理不尽おこ』『こっちはドキドキしたのに市川にそんな素振りがないことに対するおこ』『照れ隠しおこ』

・個人的には2つ目がいい。まあ、たぶんどれが正解とかはなくて、いろんな感情がまざっているんだとは思う。恥ずかしさやら恋心やら不満やらで頭の中がぐっちゃぐちゃになっててほしい。

・手の中の溶けたチョコを見つけて。昨日上げた感想でも書いたけど、それぐらい山田はドキドキしてて、そしてそれを気づかれたくないから隠した。市川はチョコには気づいたけど、その感情には気づかなかった。そういうとこだぞこの鈍感男!

・ところで、今手元にマカダミアナッツチョコがある。たぶん山田が食べてたのと同じの。普通のチョコよりは溶けやすいなと思うけど、あくまで比較的だ。作中季節はたぶん秋か冬の初め。それなのにあんなドロッドロに溶けるとは……と、勝手にダメージを食らっている。あぁ、それにしても甘い。

閑話休題。13ページの左上のコマ、ふたたびおこ顔を披露している。が、この顔はたぶんさっきよりも恥ずかし成分強め。あと市川の鈍感具合にもちょっと怒ってるかも。

・13ページ左下、「うん…」と言っているコマだが、ここの表情にも妄想を掻き立てられた。かすかに困り眉になっていて、悲しそうに見えなくもない。以下妄想成分強め。

・山田にとって、もはや図書室はただ皆に隠れてお菓子をむさぼるだけの場所ではなく、好きな男の子がいる場所でもある。ただ、後者は誰にも秘密なのだ。少なくとも、堂々と「市川に会うために図書室に来てるんだよ」とは言えない。表向きはあくまでお菓子を食べに来ているだけだ。

・それなのに、「お菓子は控えた方がいい」と言われてしまった。他でもない市川から。先生に言われるのとは違う。規則だから、だとかそういう理由ではないのは、さっきの市川の行動・表情から痛いほどわかっていて、だから無視なんてできない。

・『表向きの』動機が無くなってしまい、このままでは右手のチョコが図書室で食べる最後のお菓子になってしまう。お昼休みの二人の逢瀬が終わってしまう。それはとても悲しいことで、だからあの表情だったのではないだろうか。

・この時、市川は完全に諦めていた。だが結局、山田は次の日何事もなかったかのように図書室に現れた。『宿題をする』という新たな動機を持ってきて、だからこれからもよろしくねと。

・さて、間が丸1日抜けている。行間を読もう。

・「終わりだ…何もかも…」のあと、二人はどう過ごしただろうか。市川はいい。落ち込みながらも、とりあえず本を読むふりを続けたのだろう。彼はそのために図書室に来たというスタンスだ。崩す必要もない。山田を不快にさせた(市川視点)後だから、前みたいに本棚の前で立ち読みスタイルで、二人の会話はなかったと思う。

・山田はどうだろう。流石にお菓子はしまったはずだ。手持無沙汰のまま、お昼休みが終わるまで図書室で座っていただろうか。あるいは、表向きの動機が無くなったから、仕方なしに泣く泣く図書室を去っただろうか。

・どっちでもおいしい。前者なら市川は山田の謎の行動に心を掻き乱されていただろうし、後者だと無茶苦茶落ち込んだだろう。諦観に身を任せようとした市川の感情が、再度動かされたであろうことに変わりはない。それに、たぶん山田はどっちの行動をしようが考えていることは変わらない。明日以降についてだ。

・『市川の忠告に耳を貸しつつ』、『不自然でない』、『図書室に来る動機』。山田にとって、『もう図書室に来ない』という選択肢はあり得ない。あんなにも心奪われて、それを選ぶはずがない。

・それにしても、この回のアオリは秀逸だ。一巻のラストの回でも思った。今ならまだPixivコミックで見れるので、単行本派で未読の人に教えたい。

・山田がどこで宿題という発想に至ったかは流石にわからない。友達と話しているときか、授業の最後に宿題を出されたときか、それとも、必死に考えた末、何のヒントもなく思いついたか。

・思いつくまでは必死で、思いついた後は歓喜で。市川に会うため、おしゃべりするため、同じ空間にいるためのことばかりずっと頭の中にあって、落ち着いてからそのことに気付いたとき、また彼女は『私の心のヤバイやつ』の存在を思い知ることになっただろう。たまらん。

・やっと翌日。市川が山田を見つけ、山田もそれに気づいたとき。14ページ左上のあの笑顔が、思わず出てしまったものだと考えると、非常に魂が潤う。今までと同じように二人で居れることを、図書室に来た市川を見ることでようやく確信できて、漏れてしまった笑み。

・あるいはこういうのも考えられる。山田にとってお菓子は建前だが、市川にとってはそうではない。だから市川は落ち込んでいたのだけど、山田が市川の好意をひっくるめてそのことに気付いていたとしたら、あの笑みに「安心して」という意味を持たせることができる。

・「3分の2に!」について。山田らしい『頓珍漢で、ずれた』発言だが、これはわざと言っているというのが見解。だってここですっぱりお菓子を辞めちゃうと、山田の行動はあまりに露骨に見えるじゃないか。いやそうじゃなくてもだけど。そんなことは山田もわかっていて、だけど市川の忠告を無視するのはできなくて。だからずれた発言で誤魔化したというのでどうでしょう。

 

・作中における対比やら漫画技法やらを見つけるのは、考察にも役立つし、単純に楽しい。たまに「作者の人そこまで考えてないと思うよ」と言われるが、そんなことは関係ない。例えば、前述もした11ページの「好きだ」モノローグについて。今までずっとつけてきた枠をなくし、文字を二人の間に置くことで、市川だけでなく山田の心情をも表している、ように見える。

・背景に窓があるが、これについても語ろう。山田側の窓が、市川の方にずれている。『市川に心惹かれている山田の心情』を表しているように思うのは、こじつけだろうか。さらにその山田側の窓に市川がフレームインし、二人が同じ枠に収まっている。まさに山田の心に市川が飛び込んだ、みたいな。2つの窓の重なってできた枠に「好きだ」が配置されているのは、それが二人の気持ちだと語っている……とかとか。

・ページを戻して、9ページの大ゴマ。手前で二人の手がぼやけているのは、これが山田の視点であるということ。これは次のページで起こることも合わせてミルクティー回でも同じことをしていて、意図的に被せているのだろう。

 

・考察ばかりであんまり感想を言っていないな。この話で一番好きなのは、「なんなんだこいつは…」からの連続したモノローグ。あそこから「好きだ」までの展開を言葉少ないモノローグだけで駆け抜けるように見せるので、市川がいかに山田のことだけを考えて行動したかが強くわかって、すごい気持ちになる。

・そういえば、市川が山田について「なんなんだ」と思うのは、最初に図書室で会ってからまったく変わってなくて、なんなら1話では連呼している。

・モノローグの直前、山田が張り紙程度ではお菓子をやめないということがわかって、「なんなんだ」と思うと同時、無茶苦茶ホッとして、ホッとした自分に気付いたはずだ。この時、市川はとっくに自覚していたことだけど、改めて、自分は山田のことが好きなんだと気づいた。山田と同じタイミングで。

・この再認識が、とても尊い。考えれば、本編で市川が山田のことを『好きだ』とモノローグに出すのは久しぶりじゃなかろうか。最近の『僕らははぐれた』で「好きなこと二人きりになれて…」とか言っていたけど、あれはなんというか、自分のなかではちょっと違う。

 

・最後に、あの先生に思いを馳せよう。職員室に訪ねてきた二人、図書委員の先生なので、二人がお昼休みにいつも一緒にいることは知っていたかもしれないが、まあなんとなく仲がいいなぐらいに思っていただろう。その二人が、図書室で何やら手をつないで見つめあっている。ただ事ではない雰囲気で。男の子はすごく真剣な顔をして、女の子は赤面で驚いたような表情だ。

・これは…告白ですね。間違いない。それは速やかに図書室を出るだろう。俺なら気づかれないようにするけど、先生という立場上、一応不純異性交遊をたしなめないわけにはいかない。それで咳払い。

・ただ、告白と勘違いするにしては市川の体勢が相当不自然だ。どうだろう、あの先生はお菓子の犯人は山田だろうと目星はついていたとしたら。そのうえで、市川の行動の意味だとか、その辺も全部察したから、見なかったことにしてあげたとか。そうだとすると、さすがにあの先生が鋭すぎるだろうか。いすれにせよ、教師陣には二人の仲がちゃくちゃくと広まっている。

 

・次の更新は8月。2巻が9月。月1更新に戻ると言っていたけど、twitter短編やら2巻の追加情報(表紙とか)のことを考えると、そう取り乱すほどのことではない。だから大丈夫だ……。大丈夫……俺は耐えられる……。